2020.5.21

note


日本刺繍 紅会

飛鳥時代から続く日本刺繍の継承者である齊藤信作さんを訪ねに、日本刺繍 紅会の工房のある千葉県東金へ。木々や草花に囲まれ虫の音が聞こえる工房は、自然と触れ合う中で技術と感性を磨き、自然から創造を学びとる創立の精神から建てられたそうです。この日は、昨年焼失した沖縄首里城の刺繍を刺しているところを見せていただきました。日本刺繍は台に固定して制作するため、表側は目で見て右手で刺し、裏側はからは感覚で左手で刺すそうです。その熟練の技の精度に驚かされました。「手は精神の出口です」という紅会創立者の齊藤磬さんのメッセージが素晴らしく、ずっと心に残っているので引用させていただきます。

精神は、手から出る時は労働と呼ばれて、空間に向けて、さまざまに、形あるものを作ってゆきます。手こそは精神の出口です。この手の働きは、人の心の中のあこがれを具現するものであって、そして、手のいとなみにより人は形成されてゆきます。手は、これまでになかった事態をこの世に作り上げてゆきますが、これはとても人間らしいしごとで、「創造」とよばれます。つまり、人間の手は、その人の心を空間に刻み込んでゆくことになるのです。人間は、手によって作られたもので、おのれ自身の精神の程度を知ります。つまり、精神は手から出て作品となり、評価としてふたたび自分に戻るからです。とどのつまり、手は、自分がどういうもの、どの程度のものかを、晴れがましくも、時にはなさけなくも、自分に教えてくれるのです。(photograph 有賀傑)